言葉の瓶詰

 鯨野の作家の一部には、美しい壜に掌握小説や詩を封印する者がいる。それは鯨が空の旅を始めたころ、鯨野住人が地上の人々へ救援要求を伝えるために海へ投げ入れた瓶詰めの文の名残だと言われている。その壜は作家が亡くなって初めて封印を解かれ、人目に触れることになる。
 この『言葉の瓶詰』をこよなく愛した一人の作家がいた。彼は使い終わったインク壜の中に、インクの色にまつわる物語を封印するのを好んだ。彼の家の窓辺には様々な形の壜が並べられ、道行く人の目を楽しませたという。
 その作家の死後、家の中から見つかった壜の数は裕に百点を超えていた。それら色にまつわる物語は、封印されていた古びたインク壜の挿絵が添えられ、一冊の本にまとめられた。その本は今でも鯨野図書館にひっそりと納められている。


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