鯨野雑貨店の主人

 鯨が空の旅をはじめた頃、いつ鯨が落下するかわからないため、住人の中には地上に降りることを望んだ者もいた。そのため、最初に鯨が地上に降り立った時、その半数は鯨野を後にした。だが、空の世界に魅了された者は鯨と運命をともにすることを選択した。
 地上に降りた者の一部は他の街へ移り住んだが、一部は鯨の後を追って旅をする流浪の民となった。鯨野が地上に降り立つ時、市を開き、空の旅への物資の補給が円滑に行われるのはこの流浪の民の貢献が大きい。流浪の民の中には鯨野と地上を行き来する者もいる。
 鯨野雑貨店の主人も地上と鯨野を行き来する者の一人だ。放浪好きのこの主人は一所にとどまることが苦手なため店を留守にすることが多い。この店に並ぶのは紙製品や筆記具を中心とした雑多な物だが、鯨野の人々は空を旅する間にそれらをほぼ消費してしまうという。


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