浮島とインク原料

 鯨野では住人の消費量には満たないがごく少量のインクが生産されている。それは空の浮島のある植物の種から作られる透明なインクである。このインクは夜になると青白く発光するという特性を持ち、星の光と呼ばれている。星の光はそのまま秘密をしたためた文に使われることもあるが、筆記用インクに少量混ぜて使われることが多い。鯨野では冬の星見会の際に星の光で書かれた手紙を、密かに思いを寄せる相手に手渡す習慣がある。
 また、空の浮島は天候悪化のせいで地上に落下することがある。大抵は海の藻屑となるが、ごく稀に浮島の飛翔鉱が変成し二次鉱物が岸辺に漂着する。その結晶は浮力は失うが、空の粋を凝固させたような素晴らしく深い青色インクの原料となり、幻蒼石と呼ばれている。


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