飛翔鉱と浮島

 鯨野駅舎から左翼側に道を歩いて行くと小さな港が見えてくる。桟橋には小型の飛行船が三艘横付けされており、鯨から空の浮島への交通手段となっている。飛翔鉱はこの飛行船の燃料としてごく少量使われているが、その機構は飛行船技師のみが知る重要機密である。
 飛翔鉱を利用した飛行船が開発される前は、鯨がごく稀に浮島へ上陸する時にしか浮島の調査を行うことが出来なかった。食べることが出来そうな植物があるか。生活に使える素材はないか。空で生きることを選択した住人にとって、空の浮島を調べることは急務だった。
 浮島から少量ずつ持ち帰った植物の種や家畜に出来そうな生き物、採取できる鉱物について、鯨野に住んでいた博物学者や研究者は黙々と記録をつけていった。その記録を元に各方面の職人が知恵を絞った最初の成果が小型飛行船である。
 飛行船ができてから空の浮島の調査は頻繁に行われるようになった。だが、飛翔鉱の大々的な採掘の結果、一部の浮島の高度が下がったことが判明すると、鯨野住人は調査や採集の頻度を減らした。飛行船の数を限定し、その機構を重要機密としたのは浮島の環境を保つためだった。


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